・設計段階での家族構成は、ご夫妻と3人の小学生のお子さん。が、お施主さん曰く「子供達は18歳で出て行くかもしれないし、30までいるかもしれない。隣に住むばあちゃん達2人もひきとって一緒に住むかもしれないし、そのままかもしれない。」が「最終的に夫婦2人で7LDKに住む、という状態にはなりたくない」。もっともである。
・そこで、目指したのは「いびつなワンルーム」。寝室と子ども部屋3つ並べる代わりに、リビングを中心に全部がひとつながりの、空き地のような、ただしデコボコとしたスペースを準備した。
・ひとり(個室)か全員(LDK)か、の二者択一ではなく、また「パブリック」と「プライベート」の2分節でもなく、その間に無限に存在する家族のメンバーの組合せ、人と人との距離をできるだけ豊富にすること、これが主題であった。
・全体は、4つの帯でできている。隣り合う帯を、平面的/断面的、内と外とに「タガイチガイ」にずらすことで、空気的には繋がり、気配は感じつつも姿は見えない隅っこが出来、性質の異なる領域が生まれる。
・4つのうち、3つの帯の端は小さな塔となっていて、その上のロフトは各子供の基地となっている。アルコーブ状の最小限の基地から、ライブラリ、階段、 リビング、和室、 テラス、縁側と、性質を変えながら間仕切りなしに連続する家族共有のスペースを、こどもたちは、その時々で選び、飛び地のように占領していく。 例えば学校で、教室の自分の席の他に、校庭のある樹の下や、図書室の窓際の席など、お気に入りの場所があったように、住宅だけれども、その時々で家族の各メンバーが、陣取る場所と互いの距離を選べることを考えた。
・家は目下のところ、ほとんど基地にたてこもることなく、床におもちゃをひろげ、階段に座って宿題をし、行き止まりのない家中でおいかけっこをする子供たちに占拠されている。が、将来、今は絵本であふれた2階ライブラリを、父の、母の蔵書が、じわじわと占めていく光景もまた、想像できる。
・「異時同図法」と呼ばれる絵画の手法がある。日本の絵巻物などにもみられるが、ひとつの絵の中に同じ人物が何度も描かれることで、移動や時間の流れを表す手法である。この家の光景はその異時同図のように、家族が成長しつつ、あちらこちらに現れる姿を描いたものになるはず、である。
・新建築『住宅特集』誌 2008年9月号掲載
・ダイキン エアスタイルコンテスト特別賞(2008)
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